あらそいがなくならないりゆう||もしくは『私と悪魔の100の問答』を読んで
『私と悪魔の100の問答-Questions & Answers of Me & Devil in 100』を読んだ。
未年の終わりにこの作品にこの作品に出会ったことに運命めいたものは感じていないが、今年の締めとしては最高の作品に出会えたとは感じている。
とっつきにくそうな題名だが実際読むとシンプルに感じた。
ストーリーも小気味良くすっきりした読後感です。
私と悪魔の100の問答 Questions & Answers of Me & Devil in 100 (講談社ノベルス)
- 作者: 上遠野浩平
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/10/08
- メディア: 新書
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内容とか
三番目くらいに気に入った、主人公の紅葉と悪魔のやりとりの断片を紹介しておきます。
「君はなんで世界から戦争がなくならないのだと思う?」
とんでもなく飛躍したことを言い出し た。
「ち、ちょっと待ってよ……」
「いいや待たない。よく言うよな、人間には闘争心があるから争いはなくならないのだと。それって本当に正しいのか?いやいや、別に戦争が悪いから消えるべきだとかいう話をしてるんじゃない。別に善悪なんかはどうでもいい。人間の本質についての話だ」
「当然、つまりそれもまた人間の本質だ。そんなの無茶だ、という気持ち。そうだな──つまりこういうことも言えるな。〝メンドクセ〟という気持ちは、闘争心と同じくらい、いやそれ以上に人間の本質なんだと。怠けたい、という気持ちが染みついているのだと」
「……その言い方は、なんか引っかかるけど」
「善悪だの理想だの、もっともらしいお題目が絡みついているからややこしくなるんだよ。闘争心なんてのは後付だ。人間はできることならいつまでも怠け続けたいんだ。しかしそれだとメシの食い上げになるし、異性に良いトコ見せてモテモテになれないから、しかたなく闘争心とやらを掻き立てているだけだ。戦争がなくならないのは闘争心のせいじゃない。もめ事を解決するのをメンドくさがって、怠けているうちになし崩しに事態が悪化して、後戻りできなくなっているだけだ。戦争が人間の本質、ってのはそういう意味だ」
「……ああもう」
「動物園を見ろ。餌をたっぷり与えられて、種付けと妊娠の機会を与えられている動物たちは、実にのんべんだらりと怠けているだろう? 寝てばっかりで来場者につまんねーぞと野次られるライオン、生物の本質があそこにはあるよな」
「そういうのと人間を一緒にされても困るんだけど」
「ならば人間と、人間でないものを分けているのはなんだと思う?」
「いや、もう駄目。わかんないとかという次元じゃないわ。勘弁して」
この本を読む前に『ネットでもリアルでも(と書いときながらこの切り分け方が嫌いだ)石の投げあいが一向に収まらないのはなんでだろう』なんてぼんやりと考えていた。
往々にしてそんな思考の末路には回答が10個も100個も出て、寝て起きたら忘れてる。
そんな疑問に悪魔が発した言葉のひとつ”メンドクセ”。
これは僕の心にストンと収まった。
うん、結局人間何でもメンドクサイしダルイんですよ。
(理解すんのとかメンドクセー)(でも思ったことは言うぜ)
んじゃ、”メンドクセ”を超えるものは何かというと一例として”情熱”じゃないでしょうか。
情熱……言葉にしてみると酷く曖昧ですね。定義するのがメンドクサイ。
メンドクサイからどっかにいる正義のヒーローは炬燵でミカン食べながらTV観てるし、勤勉な詐欺師が世界を救ったりします。
(マジックワードを手に入れて思考停止してない?)(そもそも人間の”思考”が”停止”するのっていつよ?)
「ああ──クズっち。君はまだ信じているんだなあ」
「え? 何を?」
「まだ思っている──この世のどこかに先生がいて、試験を受けさせて、○か×かを採点してくれるのだと」
まとめと質問
最後に目次を貼っておきますね。
この問いに自分なりに回答して読むのもよし、読んだ後に回答するのもよし、回答すんのなんてメンドクセーよでもよし。
FIRSTSESSION『なんとなく、嫌悪することについて』
- Q01 青空と聞いて連想することは
- Q02 自分と他人どちらを軽いと思うか
- Q03 簡単でないことはなぜ簡単でないのか
- Q04 他人はどれくらいに分けるべきか
- Q05 悪い印象ばかり抱きがちなのはなぜか
- Q06 不潔と清潔の差とは
- Q07 普通とは好ましいことか
- Q08 人に用があるときの基準とは
- Q09 綽名はどこまで譲歩すべきか
- Q10 進歩と放棄は両立しうるか
- Q11 疑問はそのまま目的たりうるか
- Q12 侮辱を感じるときはどれくらい錯覚か
- Q13 記録されているときは気にすべきか
- Q14 危険を察したときどうすべきか
- Q15 日々の生活に安全を感じているか
- Q16 人生は保証されているか
- Q17 人並みとは本当に平均的か
- Q18 嫌いな者と一緒にされて耐えられるか
- Q19 変態をどう扱うべきか
- Q20 ボケとツッコミの役割とは
- Q21 ウケを狙うことと天然は相反するか
- Q22 気まぐれをどれくらい容認すべきか
- Q23 汚れると価値は落ちるか
- Q24 義務から逃げるべきか
- Q25 何を頑張ればいいのか
SECONDSESSION『おおむね、威張ることについて』
- Q26 教育と他の業種の差異は考慮すべきか
- Q27 公平はどこまで徹底されているか
- Q28 何かに守られている気はするか
- Q29 理解しがたい他人の気持ちになれるか
- Q30 やる気とは、結局なんなのか
- Q31 自覚することに深い意味はあるか
- Q32 不良ぶることに価値はあるか
- Q33 格好良さと恥ずかしさの関連性とは
- Q34 危ないと感じる基準はどこか
- Q35 目的のための手段は目的たりうるか
- Q36 人間は何からできているか
- Q37 他人に対する敵意の源はなにか
- Q38 嫌えないのは嫌われたくないからか
- Q39 素直さは美徳か悪徳か
- Q40 誰にも答えられない問いとは何か
- Q41 人を不幸にするものとは何か
THIRDSESSION『ぼんやりと、流行りのことについて』
- Q42 レンタルに精神性はあるか
- Q43 無駄な努力をするのも個人の自由か
- Q44 特別なときと普通のときの境目とは
- Q45 人間と動物の違いとは
- Q46 恋愛はトラブルの元になるか
- Q47 離婚式はなぜ一般的でないか
- Q48 生理的な好き嫌いに実用性はあるか
- Q49 人の本能は壊れているのか
- Q50 ニワトリが先かタマゴが先か
- Q51 流行は他人の物真似か
- Q52 歴史上でもっとも流行したものは
- Q53 中世の人間と現代人の差異は何か
- Q54 国家とはなにか
- Q55 人権とはなにか
- Q56 ダサいと思われるのは怖いことか
- Q57 歴史の重要性はなぜ軽んじられるのか
- Q58 怖いもの知らずという人は実在するか
- Q59 女子の怖がりはすべて演技か
- Q60 安心しているとはどういう状態か
- Q61 エクソシストとオーメンの違いは
- Q62 微妙なものをどこまで信じるべきか
- Q63 ずっと解けない錯覚は真実になるのか
- Q64 事実と解釈の間にあるものとは
- Q65 悪いこととは結局なにか
- Q66 神は悪魔と本当に戦っているのか
FOURTHSESSION『おそらくは、怠けることについて』
- Q67 馬鹿につける薬はあるか
- Q68 疲れてるときに眠らず仕事をすべきか
- Q69 悟りの心境とはなにか
- Q70 人間の行動はどこまで計算できるか
- Q71 人が人を褒めるときの主要因はなにか
- Q72 選ばれたものは他と何が違うのか
- Q73 歴史に残るものの条件とは
- Q74 ミロのビーナスは本当に美しいのか
- Q75 人の想像力は何に刺激されるのか
- Q76 危険に見合う収入の基準とは
- Q77 生命の危険はどこに存在しているか
- Q78 他人の期待に応える必要はあるか
- Q79 人と人をつないでるものとはなにか
- Q80 どうして戦争はなくならないのか
- Q81 そんな無茶な、と思うときの基準とは
- Q82 人でなしをどう扱うべきか
- Q83 社会は個人を疎外するか
- Q84 『人間失格』は何が失格なのか
- Q85 矛盾はどこまで矛盾か
- Q86 教師の採点を信じるべきなのか
FIFTHSESSION『かろうじて、根拠について』
- Q87 人形はなぜ怖いのか
- Q88 幽霊や祟りが怖いのはなぜか
- Q89 占いをつい信じてしまうのはなぜか
- Q90 不安はどこまで「気のせい」か
- Q91 冷静な人物は人生を損しているか
- Q92 暴力には暴力で対抗すべきか
- Q93 無我夢中とは偶然と同じ意味か
SIXTHSESSION『きっと、自由について』
- Q94 同情とは弱気の表れなのか
- Q95 不自然なものには必ず理由があるか
- Q96 なぜ親の説教は面倒くさいのか
- Q97 妥協しないために何をすべきか
- Q98 説得力の有無は何に起因するのか
- Q99 どうして他人に期待してしまうのか
- Q100 自由とは、結局なんなのか
上遠野浩平作品を未読の方にもオススメできるし、上遠野浩平作品が好きな方にはちょっとニヤリとできる仕掛けがあります。
僕はラストの紅葉の『回答』が一番好きでした。